訪れた中国人が、「この川はなんて名前?」と聞いたという話があるくらい狭い狭い海峡を隔てただけの、九州に程近い下関で18歳まで育った私にとって、ラーメンとは「博多ラーメン」である。幼少の頃は外食などめったになく、またインスタントもほとんど食卓に出てこない家庭であったので、極たまに食べる袋の即席めん(マルタイの棒ラーメン)でも充分に「ご馳走感」のあるものであった。が、中学生になったある日、船の仕事から陸上勤務になった父親の飲み会帰りのお土産の「参久」のラーメン。おそらくは本格的な「博多ラーメン」は僕にとってはコレがはじめて。お湯に溶かすのではなく、温めて液状に戻るその白く固まったスープ(冷凍ではなく、脂が固まっている!)は、強烈なインパクトで、母親の作る薄味のうどんに慣らされた舌には、とんでもない衝撃であった。高校生になって自らの足で出向いた「参久」でラーメンを食べたときの感激といえばもう。そんな田舎の高校生にとっては、外食するラーメンといえば「博多ラーメン」だという刷り込みとなっていたのだが、東京に出てきて、がっくり。当時の東京にはほとんど「博多ラーメン」の店はなく、当然「東京ラーメン」ばかり。西日本と比較して「うどんより、そば」、「朝ごはんには納豆」な文化にも当初は戸惑っていた私も、すっかり東京人面して、自分の味覚をシフトしていたが、ラーメンばかりは、なじめない。三年生時に新たに着任した教授が連れて行ってくれた国分寺駅前のラーメン屋(生まれも育ちも東京の彼曰く、ここのはうまい)でも、作り笑顔でメンを啜っていたのであった。ようやく東京でめぐり合ったのは表参道の「じゃんがら」。このころからか、ぼちぼち博多ラーメンが進出してきたようだ。「ふくちゃん」なんてのもあったが、こんなの食うくらいうなら「うまかっちゃん」の方がマシ程度の店だったりして、その後は特にマニアでもなく薀蓄を垂れるつもりもなく、特にお店の探求などもせずに過ごしていたのだが、30代半ばの頃に会社の同僚に連れて行かれた御苑よりの「博多天神」。確かにうまい。確かにうまいし、とんこつ特有のニオイがないのはいいのだが、少しおとなしいか。それでも味をしめて、北新宿に住んでいた頃は、ちょくちょく広小路店のほうに足を運んでいた。また田町の会社のそばに出来た「京都銀閣寺ますたに」で出くわした、背脂しょうゆとんこつというヤツのインパクトもなかなかのものであったが、やはり帰る場所は「博多ラーメン」だと想いを募らせていたのであった。
さて、歳も40を越え、なかなかここまで脂ギッシュな物に触手も伸び食指も動かなくなってきていたのだが、昨年あたりから日々60kmの走行と、環七というラーメン街道が通勤路になっているためか(空腹での帰り道は誘惑だらけ)「ラーメン熱」が上がってきた。先月修善寺の帰りの石川さんの車で鳴り響いていた奥田民生の歌う「ラーメン食べたい」が頭の中をこだまする。週の前半はぐっと我慢しているのであるが、木曜金曜あたりになってくると、週末の練習へ向けた「カーボローディング」だと、心の中で正当化し、月に2回くらい、ふらふらと(本当にフラフラで)店を探す。なんとなく自分の中では<原則、走行車線側で立ち寄れるところで><なるべく事前情報は入れず><店構えで判断し><アタリのときは素直に喜び><ハズレのときは自分を戒め><食べた分は必ず消費する>などのルールを決めて探すのだ。そんな活動で食べてみた店は以下の通り。
●平和島「梟」:東京とんこつとの看板どおり(この手の名前は、NGと相場が決まっている)ハズレ。
●代田橋「九州一番」:まずまずではあったが、妙に油のバリアが熱い。
●代田橋「バサノバ」:いわゆる「魚介とんこつ」ってヤツ。初めて食べる味で、それなりに感動して、ここには数回。
●代田橋「なんでんかんでん」:いわずと知れたお店。でも言うほどじゃなかったな。
●高円寺陸橋脇「てつや」:巷では評判もそこそこの北海道ラーメン系だそうだが、自分的には失敗。ダメ。
●南阿佐ヶ谷「満腹本舗」:合格なかんじだが、「九州一番」っぽい。
●阿佐ヶ谷北「馬鹿豚」:まずまずだが、「スープの探求で嫁に逃げられた」だとかの薀蓄だらけの外装がウザイかも。
●六本木「一風堂」:友人のblogにあったので行ってみた。合格。有名らしい。
●高円寺「えん寺」:掟破りで、その手のサイトで「杉並区内1位」だったので行ってみた。魚介とんこつの、ぐっと濃厚な感じ。確かにうまいが、くどいかも。
●方南町「桂家」:近頃の「とんこつ」。メンが太い。うまいのは認めるがちょっと違う。
●南品川「とんこつや」:ストレートな店名に引かれて入ったが、いわゆる「二郎系」?。半分まではうまいと思ったが飽きた。店主の雰囲気もじっとりしていてNG。
●保谷「マツモトツヨシ」:ふざけた店名でテレビにも出ていた。480円という破格の「最速チャーシューメン」はその名の通り注文して30秒くらいで出てきてびっくり。その割には、よくある感じの良く出来たラーメンって感じには仕上がっていた(少しぬるいけど)。他の客のタバコが臭くてちょっと辟易。
●石神井「丸源」:ファミレスっぽい店構えと多すぎるメニューの割には良く出来た感じ。
●下井草「御天」:以前物練帰りにお持ち帰り。結構うまかった。
●代々木「御天」:上記のイメージで入ってみたが、「九州一番」の油がさらにきつくなった感じ。ラーメンよりも居酒屋がメインのよう。NG。
●代々木「學金」:以前なるしまに電車で行ったときに駅前に出来ていて思わず入ったが、合格。
●代田橋「一竜」:代田橋の並びに新規参入してきた「博多屋台の老舗」らしい。かなりうまい。
■番外編「丸幸」:テレビで紹介されていた「人気のお取り寄せ」。由紀がネットで注文した。博多天神並みにうまいが、細メンを家庭でジャストに茹で上げるのは難しい。
と書き出してみると、結構行ってるな、俺。で、考えたのだが、「桂家」「とんこつや」、「えん寺」などで感じた裏切られ感はなんだろうか。博多ラーメンが東京進出して以来、本来の姿から様変わりをして(ちぢれ麺だったりするのは問題外)、最近『とんこつ=博多らーめん』ではないことに気がついた(遅いか)。二郎系(そういう系統立てがあることも近頃知った)をはじめとする、妙に麺が太く、野菜という名のモヤシ満載のヤツに代表されるもの。昨年から物練の帰りに行列が出来ている朝霞の「もっこり豚」もそうみたい。そのほかにも天邪鬼的に、有名なお店とか店構えのキレイすぎるところ、チェーン店(三田方面で仕事して20年を越えて、二郎には言ったことないし。荻窪に出来たちゃぶ屋系列の店とか、花月とか。うまくないとは言わないけど)も対象外。なんとか素直に王道を行く「博多ラーメン」はないかなと思う今日この頃。そんな気持ちで最近気にかかっていたのが、西新宿の青梅街道から靖国通りへと入っていく、大ガードに向かって行く歩道橋の袂にできた「だいだい」。「500円」「替え玉2つまで無料」のでかい文字が店頭に並ぶ。決して上品ではない表構えでいまひとつ惹かれなかったのだが、いざ入ってみると店内は落ちついた雰囲気。出てきたラーメンも、きちんと細めんストレート、スープも正統なとんこつのほどほどに濃厚な感じ。ロケーション的、店構え的に、いい意味で期待を裏切る、かなりいい感じでした。そういえば四面道交差点脇に「浜ちゃん」ってのがオープン間近のよう。<自分ルール>にどんぴしゃり。そのうち。
しかし、「味」というものは、慣れてしまうものだし、記憶のかなたの味はいつしか美化されていくもののようでもあるし。冒頭のオヤジのお土産の「参久」を凌駕するものに出会えないような気がするのは、仕方のないことなのか。
貴重な情報ありがとうございます。
代田橋「一竜」うちから近そうだし、今度行ってみます♪
やっぱり博多ラーメンの細麺最高です!!
投稿情報: kei | 2010年4 月15日 (木) 22:58