芥川龍之介の作品に『杜子春』という話がある。小学生のころに読んだ本の挿絵がとても怖かったのが印象に強い。人間の俗世間に愛想のついた若者が、仙人になりたいと申し出て、幾多の責め苦に会いながらも言いつけどおり無言を通していたが、畜生と化した親が責められるのにたまらず声を出して、現実に戻る。
原典の「杜子春伝」では、女性に生まれ変わった杜子春に対して、親ではなく、その『子』なのだそうだ。なんと残酷な。
抗がん剤の治療が始まってからの、副作用による下痢、下痢から来る肛門周辺の炎症、脱毛、皮膚の乾燥から来る目の周辺の炎症、弱まった粘膜、口の中いっぱいの口内炎、高熱、高血圧とそれに起因する痙攣、お腹に溜まった水、それに食べ物を受け付けずに瘦せ細った体。私も到底、仙人にはなれない。正直なところ、今の状態は、本当に大丈夫なのだろうか、と疑心暗鬼だった。
昨夜は病院に残った由紀から、電話があった。
主治医から話があり、航の骨髄の状態が、よくなっているとのこと。この数週間は抗がん剤治療も始めたところで、体自体が一番弱っており、諸々の症状が強く出ているが、もうすぐ骨髄の状況の改善に伴って、回復するとの見通しだということだ。それでも、このあと5回繰り返す投薬のなかで、また同じ状況を繰り返すのかと、暗い気持にもなっていたのだが、二回目以降は、ここまできつくは出ないだろうとのことも。
ほっとした。負けるな航。
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